6月に入ると、5月のさわやかな気候と打って変わって蒸し暑い日が続き、やがて梅雨の季節となってゆきます。この梅雨期の湿度の高い時期を乗り越えるために、昔から人々は生活の中に独特の工夫を凝らしてきました。典型的には日本家屋がそうです。日本家屋は床を地面から高く上げて、湿気を防ぐとともに各部屋は洋室のように区分して独立させるのではなく、障子や衾などで仕切り、湿度の高い梅雨期から夏場には、開いたり外したりして、風通しをよくする工夫がなされました。その最たるものが正倉院の校倉です。現在に到るまで、貯蔵されていた薬物、衣装、楽器などを無事保存してきました。人の住む家屋では、健康を考え、さらに障子や衾には吸湿性の強い和紙を多く用いて造られました。
湿気は人の健康にさまざまな影響を与えます。まず皮膚においては、水虫やアトピー性皮膚炎を悪化させ、筋肉や関節においては、腰痛、関節炎、リュウマチ、腱鞘炎、神経痛。偏頭痛、浮腫みなどを起こしやすくします。内臓では胃腸系が特に影響を受けやすく、ガスが溜まりやすく、腹脹りや下痢が起こりやすくなります。このような気象条件と病気の関係の学問を気象医学とか生気象学とか呼びますが、この分野の研究はごく最近になってやっと始まったばかりです。しかし漢方の分野では、2000年来、この問題はメインテーマとして研究されてきていたのです。
最近は水の健康ブームで、咽喉の渇きもないのに、血液をサラサラにすると称し、やたらと水を飲む人を見かけますが、これはイメージだけの先行で、間違いです。人間の体は血液も体液もその濃度は常に一定に調節されるようにできています。もし水を多く取ることによって、血液の濃度が薄まるならば、ビールを大量に飲む人はみな貧血になってしまいます。よっぽど水の少ない砂漠に住んでいるか、ボケ老人でもない限り、無用なことです。
上記の病気や夜中に何度も小水に起きる人などは、むしろ水分の摂取を少し抑えたほうがよいのです。水の取り過ぎで夜間排尿が多い人はよく睡眠が摂れず、高血圧にはかえって悪影響を及ぼします。浮腫んだり、関節に水がたまる人も同様です。また筋肉関節が弱く、低気圧が近づくと湿度が高まり、悪化するような人も、みな同じです。血液をサラサラにしたいならば、たまねぎや黄緑野菜を多くとればよいのです。
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